L・C.ティファニー美術館閉館問題

平成19年版 松江市観光白書の続き。
 
平成19年版 松江市観光白書
http://www.city.matsue.shimane.jp/kankou/h19_hakusyo/all.pdf
 
「平成19年版 松江市観光白書」の中に、「松江ウォーター・ヴィレッジ(現.松江イングリッシュガーデン)管理運営5億3,170万円」という異常な数字があるのですが、気になったのでその背景について調べてみると、L・C.ティファニー美術館閉館問題に行き着きました。
このL・C.ティファニー美術館とは、松江ウォーター・ヴィレッジ(現.松江イングリッシュガーデン)の中核施設として、2001(平成13)年4月28日に華々しくオープンしましたが、2007(平成19)年3月31日に閉館し、その後美術館は解体され、現在は更地となっています。要するに税金の無駄遣いという訳です。
 
と言うことで、L・C.ティファニー美術館閉館問題について時系列順にまとめてみましたが、なんかもう、グタグタです。

年月日 内容 備考
1994(平成6)年10月 ティファニー美術館(名古屋市)が移転を検討 堀内不動産(名古屋市)は、運営するティファニー美術館の移転を検討。松江市など複数の自治体が誘致活動を行なう。
1997(平成9)年6月17日 松江市が美術館建設地として旧古江中学校跡地を提示 松江市都市建設部長「立地が決まれば、隣接地に展示や外国の職人を招いた体験工房などを持つガラス工芸施設を整備するほか、観光ループバスの乗り入れや水上交通でのアクセスも検討」
1997(平成9)年7月29日 ティファニー美術館の進出協定調印式 松江市が、美術館を建設する堀内不動産(名古屋市、堀内武雄社長)と運営するグレコ・コーポレーション(同、同)と協定書を交わす。
1998(平成10)年3月 市議会で市有地の処分を決議 松江市議会が松江市立古江中学校跡地(の一部)を堀内不動産に譲渡する議案を議決。(議第二十三号)
1998(平成10)年9月 松江市が「松江市文化観光施設誘致条例」を制定 松江市進出施設に補助金を交付するなどの誘致体制を整備した。松江市合併後は松江市文化観光施設誘致条例として平成17年3月より施行。
1999(平成11)年6月14日 美術館建設地の売買契約締結 松江市松江市立古江中学校跡地(の一部)を堀内不動産に譲渡。面積8,500.04平米、売却金額2億1,590万1016円。
1999(平成11)年6月16日 ティファニー美術館の起工式 美術館の隣接地にイングリッシュガーデン(総事業費の当初予定額が約45億円)も同時に起工。
2000(平成12)年5月6日 宮岡寿雄市長が逝去 ティファニー美術館誘致を強力に推進していた松江市長が在職中に急死。
2000(平成12)年6月18日 松浦正敬氏が市長に就任 松江市長の松浦正敬氏が市長選で当選。
2001(平成13)年4月27日 使用貸借の覚書 松江市が堀内不動産からティファニー美術館を借り受けるという覚書を交わす。
2001(平成13)年4月28日 ティファニー美術館が開館 隣接するイングリッシュガーデンと合わせて「松江ウォーター・ヴィレッジ」としてオープン。松江ウォーターヴィレッジ共通入場料は2,000円。
2002(平成14)年4月 固定資産税相当額の交付を開始 松江市が堀内不動産に対して固定資産税相当額の交付を開始する。
2002(平成14)年7月22日 市議会で「財産の処分について」を議決 1998(平成10)年3月議会での議決と異なる契約を、1999(平成11)年6月14日に締結したことについて追認することを議決。
2004(平成16)年10月18日 堀内不動産が松江市名古屋地方裁判所に提訴 堀内不動産から松江市に対して、美術館の誘致の際に約束したとされる事項の債務不履行及び不法行為を請求原因として、その損害賠償金47億2,771万3,871円等を支払えとの訴えが提起される。
2005(平成17)年11月15日 ティファニー美術館の撤退の申し入れ 所有する堀内不動産と運営するグレコ・コーポレーションが松江市に撤退の申し入れを行なう。
2007(平成19)年3月31日 ティファニー美術館が閉館  
2007(平成19)年4月28日 松江イングリッシュガーデンとして再オープン 旧美術館に隣接していたイングリッシュガーデンを無料開放。
2007(平成19)年9月中旬 美術館解体の申し入れ 堀内不動産が松江市に対して美術館解体の申し入れを行なう。松江市からの固定資産税相当額の交付が打ち切られるためだと推測される。
2007(平成19)年10月23日 美術館解体の開始  
2008(平成20)年2月 美術館解体の完了  

松江市がL・C.ティファニー美術館に関連して行なった財政支援等についてリストアップしてみます。

  1. 堀内不動産に対して宍道湖湖岸の一等地である市有地(旧古江中学校跡地)を2億1,590万円で売却。(面積8,500平米)
  2. 堀内不動産に対して立地奨励金3億円を支給。
  3. 美術館隣接地にイングリッシュガーデン(51億5千万円)や駐車場(15億円)など約65億円かけて整備。財源は原発立地交付金8億円、地域総合整備事業債55億円、一般財源2億円。
  4. この他関連して、給食センターの移転新築費用及び敷地造成費用9億円など約15億円を支出。
  5. 堀内不動産に対して地域総合整備貸付金を融資。(4億円前後?)
  6. 堀内不動産に対して2002年以降固定資産税相当額を立地奨励金として交付。(2002年は2,893万円)
  7. 堀内不動産に対して運営費(賃借料)を毎年支出。(2002年は4億9,789万円。なお、松江市の2007年予算で「松江ウォーター・ヴィレッジ管理運営」として5億3,170万円計上されているが、その大部分が堀内不動産に対して支払われるものと思われる。松江ウォーター・ヴィレッジとは、ティファニー美術館とイングリッシュガーデンを含む施設のこと。「平成19年版 松江市観光白書P.23」参照)

堀内不動産に対して、これだけの財政支援等を行なった上に、47億円の損害賠償を起こされ、しかも美術館が6年で閉館し、建設後7年で解体されているのですから、松江市は道化師としか言いようがありません。整備費や運営費に100億円以上かけて残ったのは、松江イングリッシュガーデンと、堀内不動産が所有する美術館跡地という悲惨な現実。責任は誰が取るんですか?
調べた限りでは、2000(平成12)年、松江市長が宮岡氏の急死により松浦氏に代わったことが、松江市と堀内不動産の関係が悪化した最大の要因のようです。2009(平成21)年4月に松江市長選挙が行なわれますが、L・C.ティファニー美術館閉館問題が争点となるのでしょうか。
松江市松江市観光振興プログラムにおいて「庭園都市・松江」を標榜している以上、莫大な公金を投じた松江イングリッシュガーデンを国内屈指の庭園としてアピールし、足立美術館安来市)や由志園(松江市大根島)と組み合わせた「庭園をめぐる観光ルート」として定着させる努力をしてほしいものです。
 
「旧松江市議会 平成十年第四回十二月定例会」における宮岡市長(当時)の発言から引用します。

 それから、ティファニー美術館とフラワーパークの問題でございますが、これは両方合わせまして大体百六十億円ぐらいでございまして、市の負担が百億円、民間の方が六十億円ぐらい。市の百億円のうち、地域総合整備債というのを使いますと、おおむね半分ぐらいは国の交付税で措置されるという仕組みになっていますので、百億円のうち五十億円程度は国の交付税で措置されると、こういうものを今活用して、それぞれ公園整備だとか、そういう目標の中で取り組んでおります。
 具体的には、ティファニー美術館がおおむね八十五億円程度で、市が四十億円、民間の方が四十五億円ぐらい、それからフラワーパークが大体総額が七十五億円で、市が六十億円で民間の方が十五億円ぐらい、若干これから詰める要素もございますので、流動的な要素もございますが、大枠はそういう考え方でやっております。

1998(平成10)年12月における松江市の構想をまとめると以下のようになります。

施設 松江市負担 民間負担 合計 備考
ティファニー美術館 40億円 45億円 85億円 現.松江イングリッシュガーデン
フラワーパーク 60億円 15億円 75億円 現.松江フォーゲルパーク
合計 100億円 60億円 160億円  

「旧松江市議会 平成十二年第三回 六月定例会-07月04日」における出川修治議員(当時)の発言から引用します。

 当初は、松江市の土地を買い上げてもらって、相手方が一方的に事業展開をされるというふうにも聞いておりましたが、そう甘い話にはならず、紆余曲折を経て、最終的には松江市も湖北芸術文化村に五十五億円、附属する駐車場整備に十五億円、またフォーゲルパークに五十七億円という巨費を投ずることになりました。

まとめると、2000(平成12)年7月の段階では以下のように変化しています。「湖北芸術文化村」とはティファニー美術館を含む一帯のことです。

施設 松江市負担 民間負担 合計 備考
湖北芸術文化村 70億円 ?億円 ?億円 現.松江イングリッシュガーデン
フラワーパーク 57億円 ?億円 ?億円 現.松江フォーゲルパーク
合計 127億円 ?億円 ?億円  

  
参考までに、堀内不動産の言い分(ただし非公式なものですが)にもリンクしておきます。
 
「恩を忘れた非道な仕打ち、悲憤ここに極まれり」(プレス配布資料):未来構想へようこそ
http://www.owaki.info/horuuchi%20hifun/Horiuchihifun.html
 
以下、参考にしたWebサイト。
 
松江市議会 平成十四年第三回 七月臨時会
http://www.gijiroku.net/discuss/cgi-bin/WWWdispNitteiunit.exe?A=dispNitteiunit&RA=frameNittei&USR=webusr9&PWD=&XM=000000000000000&L=1&S=15&Y=%95%BD%90%AC14%94N&B=-1&T=-1&T0=-1&O=-1&P1=&P2=&P3=&P=1&K=94&N=215&H=1200709&W1=&W2=&W3=&W4=
ティファニー美術館誘致 旧古江中跡地を提示 松江市 周辺に観光施設を整備
http://www.web-sanin.co.jp/orig/news/7-618h.htm
ティファニー美術館 芸術文化村形成へ始動 松江市と進出協定調印 13年春開業目指す
http://www.web-sanin.co.jp/orig/news/7-729a.htm
「ルイス・C.ティファニー庭園美術館」起工にあたり
http://www.city.matsue.shimane.jp/jumin/shisei/kouhou/press/h11/990614a.htm
松江・ティファニー美術館施設計画 14展示室に代表作200点 ステンドグラスやランプ 外観は石張り洋風に 13年4月開館
http://www.web-sanin.co.jp/orig/news2/9-0615a.htm
松江市長定例記者会見:平成18年11月27日(月)
http://www.city.matsue.shimane.jp/jumin/shisei/kouhou/press/h18/m1127.htm
 
湖北芸術文化村L・C・ティファニー美術館訴訟
http://fish.miracle.ne.jp/dawnkato/tifany.htm

ルイス・カムフォート・ティファニー(LCT)美術館は、堀内不動産株式会社が設置経営する、名古屋市瑞穂区弥富町字円山8ザステージにある美術館で、名古屋から地方都市への進出を計画していました。松江市上諏訪市などが誘致合戦を展開し、宮岡市長時代の松江市が誘致に成功しました。
誘致のために松江市は、市有地を格安で分譲し、誘致奨励金を3億円約束。
取りつけ道路整備、市営駐車場設置、エスカレーターのある歩道橋整備など至れり尽せりのサービスをし、市が設置する「イングリッシュガーデン(入場料300円)」と、堀内設置の「LCT美術館(入場料1700円)」を表裏一体で整備した上、入場の方法は、一括入場券のみの方法によると、自治法違反の確約書まで調印していました。
ところが宮岡市長死去により、松浦市長が就任し、自治法違反の取扱はできないといいだし、混乱が続いていました。
松浦市長は、平成13年3月市議会で、LCT美術館を市が無償で借受け、市の公の施設として供用を開始する戦法に出ました。
市議会では、共産党・草の根など反対を押しきり、自民・公明などの多数で成立させました。
(中略)
ティファニー美術館経営者堀内氏と前松江市長(故人)間で市議会にも知らせず密約が締結され、市営イングリッシュガーデンは同美術館と一括入場料負担以外では入場できないとしたことです。
同美術館を誘致するために、松江市は美術館隣接地にイングリッシュガーデンを51億5千万円かけて造り、15億円かけて市営住宅用地を駐車場にし、9億円かけて給食センターを移転新築させて敷地を造成するなど、しめて80億円も市費を投じました。「市立ガーデン」と「堀内立美術館」を「単一入場券」でというのは、明白な地方自治法違反です。前市長死去をうけて就任した現市長も市議会で自治法違反と答えていた通りです。
ところがその市長が、00年末から「堀内立美術館」を無償借り上げ(使用貸借)して「公の施設」にすれば、法律違反をクリヤできると言い出し、市条例を多数で押し通したのです。

 
ティファニー美術館 松江市が整備計画説明 周辺を「湖北芸術村」に(1997年7月26日)
http://www.web-sanin.co.jp/orig/news/7-726.htm

議員からは、誘致条件や地権者の意向、集客目標、事業費などについての質問があり、市側は、既に地元説明に着手したことや、市の事業規模は2、30億円になるとの見通しを示した。

 
松江市倉吉市視察報告:四街道市議会議員 森本次郎
http://homepage2.nifty.com/morimori/council4/sisatu12.htm

跡地のうち美術館用地は運営主体であるグレコ・コーポレーション(株)に売却し、土地代金を合わせて、総額20億円で建設された。
(中略)
一方市では、跡地の美術館周辺をイングリッシュ・ガーデンとして整備するととともに、道路を隔てた向かい側には駐車場を整備した。この庭園と付帯施設整備には約51.5億円かかり、その財源は原発立地交付金8億、地域総合整備事業債55億、一般財源2億となっている。その他に駐車場整備費として13.5億円を要している。(駐車場、歩道橋、JA移転補償費など)
(中略)
運営主体は美術館部分も合わせて(財)松江市観光公社がおこなっており、そこから美術館の運営をグレコに委託するという形態となっている。なお、収支の見通しは収入7.5億円、支出9.5億円で、年間2億円の赤字が発生する見込みになっている。
(中略)
このウォーター・ビレッジで55億円を起債した松江市の場合でも地域総合整備事業債の49%は後年度に交付税措置、すなわち半分は実質国庫補助金ということになる。

 
ティファニー美術館撤退申し入れ(中国新聞:05/11/26)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200511260051.html

堀内不動産は昨年十月、市の誘致時の約束が果たされていないなどとして、約四十七億円の損害賠償の支払いを求める訴訟を起こし、松江地裁で市と争っている。
(中略)
十一月十五日付の申し入れ書によると、
(中略)
市が誘致に当たって約束、交付した助成金三億円の返還は必要ない、と説明している。
(中略)
市は〇二年以降、固定資産税相当額を交付している。

 
訴訟に関すること:松江市
http://www.city.matsue.shimane.jp/jumin/shisei/annai/sosyou.html