市政概要-松江-平成20年版:観光振興部

平成19年版 松江市観光白書の続き。先日、松江市議会で公開された予算関係の資料について考察する。
 
市政概要 松江 平成20年版
http://www.city.matsue.shimane.jp/jumin/gikai/gikai-9.htm
市政概要 松江 平成20年版:観光振興部
http://www.city.matsue.shimane.jp/jumin/gikai/pdf/h20_sisei-07.pdf
 
「市政概要 松江 平成20年版:観光振興部」を読む限り、観光振興部は松江開府400年祭を強烈にプッシュしているようだ。あくまでも想像にしか過ぎないが、数年前に行なわれた江戸開府400年事業に触発されたか、あるいは外部のコンサルタントに入れ知恵されたかのどちらかなのだろう。
江戸開府400年のときは「江戸ブーム」が起こり、現在に至るまで息長く続いているが、果たして松江開府400年の効果はどれだけのものであろうか。事業内容や巷の盛り上がり方を見る限りでは、一過性の「松江ブーム」さえ起こらないような気がする。
にもかかわらず、少なからぬ予算をかけて松江開府400年祭をやるって、どれだけの意味があるのだ? 松江市民への啓蒙としては効果があるかもしれないが、観光の側面から考えると疑問。やるんだったら長期的展望の下、効果的にやってくれ、と言いたい。松江開府400年祭で、いったい何を残すと言うのだ?
 
松江城は築城当時のまま現存しているし、それなりに有名なのは確かだが、それから先が続かない。例えば、江戸城だったら松の廊下とか大奥とか、大阪城だったら豊臣秀吉とか夏の陣とか、歴史的に有名な出来事などがすぐに出てくるし、イメージも膨らんでいく。翻って松江城に何かあるのかと考えてみても、なかなか出てこない。
強いて言えば、松江藩主の松平不昧公つながりで茶道や和菓子、また、宍道湖や大橋川が近い上に堀川遊覧船が就航しているので水の城といったところか。
 
そもそも国際観光文化都市として松江市は指定を受けているのだが、「松江」というブランドが確立されているとは言いがたい。外部からは「松江市って何?」といった程度の認識しか受けていないと思う。
首都圏からのアクセスの悪さを理由にする人は多いが、それは間違っている。魅力的だと思える街には、どれだけ時間や費用がかかろうとも人は行く。例えはあまりよくないが、ハワイなどはその典型的なケース。
松江ブランドが確立されていないのは、ひとえに情報発信を怠っていたからだと思う。
 
例えば、宍道湖の夕日はキレイだし、観光資源として活用されてもいるけれど、全国区の知名度とは言いがたい。確かに「夕日の見える美術館」をコンセプトにした島根県立美術館などは、ロビーを無料開放するなどで頑張っているし、宍道湖夕日スポットなどという階段護岸も作られた。
でも、これらの夕日スポットは、松江ブランドとは違う気がする。自分がイメージするのは、長い年月はかかるだろうが、宍道湖に砂浜を復活させて、「夕日ビーチ」とするようなこと。大がかりな施設工事や護岸工事をするわけではないので、すぐに観光名所となることはない。物凄く地味なもので、植生を取り戻すことから始めることになるから、数年、数十年の単位の話。しかも実現可能かどうかも怪しいのでリスクが大きい。
これって観光の側面から考えると、派手さはないし、すぐに効果が出るものではない。けれども、こういった地道なことを、行政が観光政策として重点的に打ち出すのは、注目を集めるだろうし、将来的には物凄い財産になるのではないかと思う。少なくとも、流行のスローやロハスには合致する。(笑)
数十年後に、宍道湖の広大な砂浜で、大勢の観光客が夕日を眺めながら出雲神話の世界に思いをはせているって、なかなか夢があって面白そう。ハコモノを作るのではなく、今ある観光資源(松江市の場合は主に自然)を無理のない形で生かすという姿勢が求められていると思う。そして、そうした姿勢や強い意思を、しかるべき方法で発信し続けることが、遠回りかもしれないけれども最も効果的なPRだと思う。
 
話は戻って、松江開府400年祭。
個人的には、松江城天守閣で展示している鎧や兜などを、祭りの期間を通じて全て別の場所(興雲閣など)に移して、天守閣の中を広大な空間にすればいいと思う。広大な空間で何をするかと言うと、たいていの人はゴロリと寝転がるはず。天守閣内の大広間に横たわり、売店で購入した松江城の歴史本や小泉八雲の本を読みながら、400年間の歴史の重みを感じるって面白そう。
松江城は重厚な歴史を感じることが可能な建物なので、余計な展示物は取っ払って、登城者に広々とした空間を開放すればいいと思うし、全国的にもそのような試みはあまりされていないような気がするので、話題作りにもなりそう。いわゆる引き算のイベントだけど、松江城の400年記念としては相応しい気がする。
あるいは、広大な空間を利用して、天守閣で400年祭懐石弁当プランや大広間貸切プランなどを、期間限定で実施するのも面白そう。観光客に400年記念タオルを使って床掃除をしてもらうのもいいかもしれないし、個人的には大広間で安来節を見てみたい。(笑)
観光と言うと、今までは足し算(ハコモノを作ったり展示物を増やす等)だったけれども、松江市のような観光地には引き算の発想も必要だと思う。余計なものを剥ぎ取った方がいいものって結構多いのだが、それって勇気がいるし、リスクもあるから、実現するのは難しいケースが多い。でも、他の誰もやっていない、オンリーワンを目指すのであれば、リスクを取る意義はあると思う。
 
いくら情報発信をしても話題性がなければ効果はない。一番効果的なのはオンリーワン。ちなみに松江市がインターネットにおいて注目されているもの一つは「Ruby City Matsueプロジェクト」。これって、開発者のまつもとゆきひろ氏が松江市在住ということを活用したもの。松江市以外の人間には、松江開府400年祭より知名度は高い(と思う)。ならば、Rubyを活用すればいいと思うのだが、やっているのは、松江開府400年祭のホームページをRubyで構築しているぐらい。
私ならば、松江開府400年祭をアピールするWebコンテンツのコンテストを実施する。最優秀賞には100万円。松江城松江藩の歴史を遊びながら学べるサイトとか、松江城を舞台にしたゲームサイトとか、城・茶道・和菓子・湖などをテーマにしたユニークな旅のサイトとか、関連性が認められて、かつ、面白ければそれでOKという趣旨で募集する。Rubyで構築するのがベターだけど、そこら辺は緩くして、何らかのオープンソースを使用することを要件として、別途Ruby賞などを設けることで「Ruby City Matsueプロジェクト」に対応させる。そもそも日本Linux協会を立ち上げた生越昌己氏は松江市出身だし、Rubyに限定せずにオープンソース全般を扱った方がいいと思うし。
また、以前に比べてブームが下火にはなったけれども、マッシュアップの要素を加えてもいいかも。松江市の行政情報をコンテスト向けにAPIとして提供したり、既にAPIを提供している企業(特にRubyを採用している企業)に協賛会社として参加してもらうなどすれば、自治体が主催するマッシュアップコンテストということもあって話題性はあると思う。
 
松江開府400年祭に関連したイベントについて全てをフォローしている訳ではないからピント外れのことを言っている可能性はあるが、100年後の松江開府500年を考えているイベントが見当たらないのは残念だ。松江城及び周辺環境を、100年後にも残していくような強い意志を感じるイベントの実施を期待しています。