L・C.ティファニー美術館閉館問題2

L・C.ティファニー美術館閉館問題の続き。松江市議会での市長や議員の発言から拾っていきます。
 
「旧松江市議会 平成十二年第四回 九月定例会-09月12日−03号」の松浦市長の発言から引用します。

 このティファニーにつきましては、平成九年七月に地域の活性化、あるいは雇用効果、それから観光の拠点というふうなねらいといたしまして、この誘致が決定をされた、具体的には平成九年七月に協定書が締結をされているというものでございます。その協定書の中には、議会の議決ということを経た上で実行していくという縛りはついておりますけれども、昨日来、議論になっております無料の駐車場の設置、それからレイクラインの十五分間隔の運行、それから空港からの水上運航の新設、そういったものが言われているわけでございます。
 その後、平成十一年八月でございますけれども、入場料につきましての覚書というのを結んでおります。一つは、この入場については共通入場券による一括入場のみとすると、こういうことにいたしております。それから、この入場料につきましては、美術館と一括して徴収をして、入場料金は二千円とするということにいたしまて、その内訳が美術館が千七百円と、それから市分が三百円という形で、この覚書でその額を決めているわけでございます。もちろん、先ほど申し上げましたように、市分の入場料につきましては、議会の議決というのがもちろん前提になるということは当然のことでございます。

まとめると以下のような内容の協定書及び覚書を、松江市と堀内不動産との間で締結している訳です。

  • 1997(平成9)年7月協定書の締結
    1. 無料の駐車場の設置
    2. イクラインの15分間隔の運行
    3. 空港からの水上運航の新設
  • 1999(平成11)年8月覚書の締結
    1. 共通入場券による一括入場のみ
    2. 入場料金2,000円(美術館分1,700円、松江市分300円)

信じられないのは、この後の松浦市長の答弁です。

 こういった協定書、あるいは覚書という形でございますが、これらいずれも仮契約としての意味を持っているわけでございます。したがいまして、市としては、この契約を締結した以上、これは誠心誠意この実現に努めていかなければいけないと、こういう義務を負うわけでございます。したがいまして、先ほど協定書の中にありますような、駐車場あるいはレイクラインとか水上交通、こういった問題につきましては、可能な限り我々としましては努力をしていかなければいけない、これはその契約上そういう義務を生じていると、もちろん物理的にこれができないというようなことはもちろんあると思いますが、それはその限りで努力をしていかなければいけないということになっているわけでございます。

協定書や覚書を「仮契約」と言ってしまうセンスを疑います。議会を通していないから「仮契約」という趣旨らしいのですが、「議会の議決が得られなかった場合は失効する」というような文言が入っていないのであれば、そのような理屈はビジネスの現場では通用しないと思います。
しかも、この2000(平成12)年9月の段階では、まだティファニー美術館はオープンしていません(オープンは2001年4月)。ティファニー美術館の運営者である堀内不動産からすれば不愉快極まりない発言としか言いようがありません。賠償責任について協定書や覚書に明記されているか否か不明ですが、松江市が契約不履行を理由に賠償請求されるのも仕方ないのではないでしょうか。
 
なお、「旧松江市議会 平成十二年第五回十二月定例会」は、ティファニー美術館の問題をめぐって大荒れとなったようです。
長くなりますが、「旧松江市議会 平成十二年第四回 九月定例会-09月12日−03号」の西村びん議員の発言から引用します。

 十一月中旬、宍道湖畔で進められているティファニー美術館に関連してグレコ・コーポレーションから松江市と交わされた約束事の文書の数々が、そしてまたグレコ・コーポレーション側からの言い分が私の方に送付されてまいりました。これは私だけでなくほかの議員さんや、また、市の執行部の方にも送付されていることと存じます。
 市長は、去る九月議会で相手方との間に、これまでないとされてきた確認書や覚書が実は存在してきたことを明らかにされました。そして今後はきちんとやっていく旨答弁をされたところです。しかし、今回送られてきた文書では、約束を誠実に実行しない松江市に対して強い調子の文章がつづられております。その後、松江市は十一月十九日に相手方とお会いされ、市長が陳謝されたとのことをお伺いしました。
 このティファニー美術館建設問題につきましては、これまでないとされてきた覚書や確認書が実際に存在することが判明したり、レストランの整備についてトラブルが発生したり、また、漁業権交渉もないうちから水上交通が宣伝されたり、入場料の徴収法をめぐって食い違いが表面化したりと、次々重大なトラブルを発生させております。市は、今回のみずからの努力不足ということで陳謝されたとのことですが、相手との信頼関係は果たしてこれで取り戻すことができたのかどうか、松江市民が納得できる形で最後の詰めが図れるのかどうか、相手方との協議の現状と今後の展望を伺います。
 とりわけ、松江市が頭を下げたという背景には、まだ公表されていない約束事など、何らかの公表されては都合の悪いことでも市の方にあるからではないかとの市民の疑心暗鬼の声も聞こえてくるところでありますが、市としては、こうした公表されていない事実はもうないのかどうか、改めてお伺いしておきたいと思います。
 次に、水上交通問題についてです。当初、松江市は、宍道湖漁協との漁業権交渉の中で、県立美術館と出雲空港をつなぐ航路について交渉を続けてこられ、漁協も協力的でお話も進み、役員会の決定直前までこぎつける状況となっていたところに、堀内氏側からの数々のパンフレット等による大量宣伝の形で、航路がもう一本別にティファニー美術館と空港を結ぶものが計画されていて、そのパンフレットによれば、夢のアクセスが実現しますと既に既成事実のように扱われていたわけであります。何も知らされていなかった宍道湖漁協の中は、組合員から話が違うではないかと組合長自身が批判を受けるというような大きな混乱となり、この水上交通問題は暗礁に乗り上げてしまったわけであります。
 その際の松江市の説明は次のとおりでありました。これは相手方が勝手にやっていることであり、松江市としては、全く関知していない。二、ティファニーと空港を結ぶ航路については、単なる将来の考え、構想としてはあるが、現実の計画はない。三、まず県立美術館と出雲空港を結ぶ航路について交渉をまとめたいという内容でございました。
 しかし、宍道湖漁協側は、ティファニーと空港を結ぶ航路についても、ここまで相手方が宣伝される以上、きちんとした約束事があり、具体的な計画として存在しているのではないか、計画の全体像を明らかにした上で交渉に臨みたいとの主張でした。
 この件について、私自身が市に説明を求めた際、担当職員の人は、宍道湖は漁師のためだけにあるんじゃないんだと、私に強く主張しておられたことをよく覚えています。しかし、実際には全くないと漁協に説明してこられたティファニーと空港を結ぶ航路計画はきちんと存在をし、相手との間で宣伝物に載せることを認める文書まで交わされていたわけです。交渉の際、漁協に対して事実を明らかにせず、うそまでついて話し合いを進めようとしてこられたことによって、この水上交通問題は話し合いのもととなる信頼関係が喪失するという事態に立ち至りました。
 なぜ松江市は、漁協に対してこうしたうそまでついた交渉をまとめようとされたのか、第一点をお伺いしたいと思います。
 第二点として、市は今回この水上交通の実現についてのことも含め、市の努力不足を堀内氏側に陳謝されたとのことですが、こうした事実と違う形での交渉を漁協との間でまとめ切れなかったことが果たして市の努力不足と言えるのでしょうか。市の交渉に当たっての基本姿勢を伺っておきたいと思います。
 第三点として、今後の交渉の進め方についてどのようにお考えになっておられるのかお伺いをしたいと思います。
 宍道湖干拓堤防によって水の流れを阻害される中、水質が年々悪くなり、貧酸素水塊の発生と毎年の魚介類の大量死に悩まされる中、このティファニー沖は数少ないシジミの好漁場と聞いています。きちんと双方納得できるような誠実な対応を改めて望み、この質問項目を終わります。

松浦市長の答弁は以下の通り。

 それから、ティファニー美術館の問題でございますが、相手方と協議をして信頼関係を取り戻すことができたかどうかということでございますが、午前中からいろいろお答えを申し上げておりますように、十一月の十九日に堀内氏と長時間にわたりまして協議をして、来年の四月にオープンをしていくということで双方努力していこうと、こういうことになっております。
 その際、美術館側に対しまして、我々の努力不足等について多大な迷惑をかけたことに対して陳謝いたしたわけでございますが、これからお互いに、これを起点といたしまして信頼関係を築いていけるのではないかと考えております。今後は、美術館側に対しましても湖北芸術文化村を魅力ある施設として整備できますように円満かつ精力的に話し合いをしていきたいと思っております。
 それから、市として公表していない事実はもうないのかどうかということでございますが、覚書など美術館側と交わした文書につきましては、既にごらんいただいているとおりのものでございます。
 それから、水上交通問題で漁協等々とのトラブルの問題がございました。大変漁協を初めとして関係各位に御迷惑をおかけしたと思っております。漁協側との話し合いを持つべく努力をいたしておりますけれども、宍道湖水上交通につきましては、漁協の御理解を得なければ実現できないことでございますので、今後できるだけ早く実現をするように、諸課題を整理した上で御協議していきたいと思っております。どうか西村議員さんも、この漁協との関係も非常に深いというふうにお伺いしておりますので、ぜひともよろしく御支援のほどお願い申し上げたいと思っております。

ティファニー美術館と出雲空港を結ぶ宍道湖水上交通については宍道湖漁協の反対により実現されなかった、という理解でしたが、上記やり取りを見る限り、一番の問題は松江市の交渉能力だったようですね。なぜ、宍道湖漁協に対して、島根県立美術館出雲空港ティファニー美術館と出雲空港の2路線就航について、同時に交渉しなかったのでしょうか。
 
続きまして「旧松江市議会 平成十三年第一回 三月定例会-03月06日−02号」の松浦市長の発言。

この一般会計予算のとおりで松江市の観光開発公社への管理委託費として湖北芸術文化村九億六千七百二十万円を計上しておりまして、そのうち庭園の委託、庭園等の経費が三億二千八百万円ということでございます。それから、この庭園等の経費三億二千八百万円につきましては、施設それから附属の駐車場、管理事務の人件費で構成をされておりまして、この中で施設それから附属駐車場につきましては、固定経費として光熱水費あるいは設備機器の保守点検費、それから施設管理経費として業務委託費等を上げているわけでございます。この結果、市の持ち出し分、入場料等々差し引きますと二億円程度の持ち出しが発生をするということになるわけでございますけれども、一方において、四十万人の観光客が見込まれているということで波及効果、経済効果ということも考えていく必要があるだろうと思っております。例えば、四国のしまなみ街道のケースでいきますと、経済効果が最低でも一人当たり一万円程度ということになっておりまして、四十万人ということになれば四十億円という経済効果があるわけですが、当然市税にこれははね返っていくと、こういうことになると思います。そういうことにつきましてぜひ御理解を賜りたいと思っております。

何を言っているのかよく分からないのですが、財団法人松江市観光開発公社に対して、湖北芸術文化村管理費として9億6,720万円予算計上するということは確かなようです。内訳は、人件費が3億2,800万円で、残り6億3,920万円の内容は不明。

項目 算額 備考
庭園等の経費 3億2,800万円 施設・附属駐車場、管理事務の人件費
その他の経費 6億3,920万円  
合計 9億6,720万円  

なお、入場料収入を7億5,500万円を見込んでおり、これがそっくり松江市の一般会計収入になるとのことです。と言うことは、ティファニー美術館を所有・運営する堀内不動産には一切お金が入らないのか、ということはもちろんありえない話で、松江市から財団法人松江市観光開発公社を通して、堀内不動産へ賃借料や運営委託費等が支払われる訳です。要するに、松江市は堀内不動産に対して営業補償をしたということです。堀内不動産としては、(原則的に)利益分を上乗せした上で、賃借料や運営委託費等を請求できる訳です。
 
次に「旧松江市議会 平成十四年第二回 六月定例会-06月13日−02号」の小笹義治議員の発言。

 観光開発公社から湖北芸術文化村等の決算が出されました。有料入場者三十万八千二百三十八人、入場料収入五億八千五百七十六万円、支出合計六億九千六百五十四万円、堀内不動産への支払いは四億九千七百八十九万円です。赤字は一億一千七十八万円にもなっています。

堀内不動産への支払額は入場者数に応じて変動するような契約になっているようですね。と言うことは、一定数の入場者数が確保できなければ、堀内不動産が赤字になる可能性もあるということみたいです。そこら辺は、実際に契約内容を見てみないと分かりませんが。

フォーゲルパークは、ベコニア大温室は有限会社カモの直営ですので、市営の施設は有料入場者二十八万五千八百十一人、収入は七千五百四十九万円です。赤字は四千七百四十五万円、二つの施設で一億六千万円の市民負担、税金の持ち出しです。さらに、二つの施設の建設費の借金、湖北芸術文化村五十八億九千三百万円、フォーゲルパーク四十六億七百万円、昨年度は金利だけの返済です。二つの施設で千七百七十二万円。実質赤字は一億七千六百万円にもなります。今年度予算で同様の計算で、赤字と借金返済の合計は五億五百万円の赤字になります。三年後の二〇〇五年からは、赤字と借金返済の合計で十億円を超えます。

年間運営費の負担額も大きいですが、建設費の借金額が凄いですね。無駄遣いにならないように、骨の髄まで施設を活用してもらいましょう。
 
そのためにも、松江市は、L・C.ティファニー美術館に限らず、ここ20年ぐらいの間に整備されたハコモノの利用状況(費用便益)について、毎年総括すべきです。
例えば、下記項目について施設ごとに計算し、直ちにWebサイト等に公開してほしいです。

  1. 当初の建設費
  2. 建設費の借金額
  3. 借金の残額
  4. 年間運営費
  5. 年間返済利子
  6. 年間収入
  7. 利用者数
  8. 費用便益の算定

ハコモノを作って建設業者が満足した」では通用しない時代です。「ハコモノのその後」について、市議会だけでなく市民に対しても、分かりやすい形で情報公開する責任があります。